大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 平成11年(行ウ)2号 判決 2000年7月24日

原告

伊達精行

杉田正弘

野瀬慎一

千葉和芳

被告

(加須市長) 高瀬一太郎

右訴訟代理人弁護士

石津廣司

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

理由

一  当事者間に争いのない事実、証拠(〔証拠略〕証人内田昌宏(以下「内田」という。)の証言)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  東中学校は、昭和三四年四月、加須市大字花崎三五〇番地に開校され、その学校敷地面積は、一万四八八八平方メートル、別紙図面三記載のとおり、同図面記載<1>の二階建木造校舎、同<4>の三階建鉄筋校舎、同<5>及び<7>の平屋建木造校舎二棟が設置されていた。昭和三五年五月一日の東中学校の生徒数は、六二四人、学級数は、一三学級であった。

2  東中学校は、昭和三五年、別紙図面四記載<5>の平屋建木造校舎を設置し、同<12>の体育館を設置した。また、東中学校は、同図面記載のプールの建設用地として、東中学校敷地の東側隣接地を、昭和四〇年、昭和四四年及び昭和五一年に順次取得していき、同中学校の敷地は、一万八三九九平方メートルとなった。

3  昭和五九年、東中学校は、住宅都市整備公団による花崎駅北特定土地区画整理事業等の開発事業により、生徒数の増加が見込まれたため、別紙図面五記載の運動用地一万七九四九平方メートルを取得した。これにより、東中学校の敷地は、三万六三四八平方メートルとなった。

4  昭和五八年から昭和六〇年にかけて、別紙図面三記載<1>の二階建木造校舎、同<5>及び<7>の平家建木造校舎二棟及び別紙図面四記載<5>の平家建木造校舎が、危険建物と認定されたため、昭和六一年度から昭和六二年度にかけて、東中学校は、右校舎を取り壊し、別紙図面一記載<22>の四階建鉄筋校舎一棟二九七三平方メートルを新たに設置した。右校舎の一階部分は、校長室、職員室、放送室、印刷室及び教材室で、同校舎の二階から四階部分は、普通教室一五教室であった。

5  加須市教育委員会は、平成二年度に東中学校の通学区域内の将来の生徒数及び学級数に関する予測した。右予測方法は、次のとおりであった。まず、平成二年五月一日を基準日として、東中学校の通学区域内の三歳児から五歳児までの人数を、住民基本台帳から計算し、三歳児一九七人、四歳児一七二人、五歳児一九一人との結果を得、東中学校の通学区域内の大桑小学校及び水深小学校の小学一年生から小学六年生までの生徒数の合計を、小学一年生二〇五人、小学二年生二〇七人、小学三年生一八一人、小学四年生一七八人、小学五年生二〇二人、小学六年生一七〇人と把握した。そして、昭和六二年度から平成二年度までの間に東中学校の通学区域内の小学校在籍児童数が、二一四名増加しており、一年間の一学年平均増加数は一一・八名であることから、将来的な一般的社会増による生徒数の増加を、一年間当たり一学年一〇名とした。さらに、平成四年度には、東中学校の通学区域内において、ライオンズガーデン花崎というマンション及び住宅都市整備公団の分譲住宅への入居が開始することから、右マンションについては、その販売業者に依頼して、入居申込者の家族の入学予定についてアンケート調査をして、また、右分譲住宅については、建築確認申請がされた戸数をもとに、国庫補助金の補助基準に用いる増加児童生徒算出の係数(小学校については、〇・四五、中学校については、〇・二二)を用いて、東中学校への入学申込者数を把握し、右をもとに、平成四年度における児童の特別の社会増は、平成二年度の三歳児に対し九六名、同四歳児に対し六〇名、同五歳児に対し七四名、同小学一年生に対し七一名、同小学二年生に対し四七名、同小学三年生に対し五〇名、同小学四年生に対し五二名、同小学五年生に対し五五名、同小学六年生に対し三〇名、同中学一年生に対し二九名がそれぞれ増加するものと予測した。以上の平成二年度の児童数、将来の社会増、平成四年度における特別の社会増をもとに、加須市教育委員会は、将来の東中学校の生徒数及び学級数を、平成三年度は、生徒数五九〇名、学級数一六、平成四年度は、生徒数七三六名、学級数一九ないし二一、平成五年度は、生徒数七七七名、学級数二一、平成六年度は、生徒数八三八名、学級数二二、平成七年度は、生徒数八六五名、学級数二三ないし二四、平成八年度は、生徒数九四一名、学級数二五ないし二六と予測した。

6  加須市教育委員会は、右のとおり、東中学校の生徒数が、増加し、平成八年度には、生徒数九四一名、学級数二五ないし二六となると予想され、東中学校の大規模校化を防ぐ必要があったこと、昭和三四年に設置された別紙図面一記載<3>の三階建鉄筋校舎が平成元年度実施の耐力度調査において危険建物の認定を受けることが確実で、右校舎の改築の必要性があったこと、右の東中学校の将来の生徒数の予測で平成四年度には学級数が一九ないし二一になると予想され、同図面記載<12>の体育館七六一平方メートルでは、文部省の基準に比して面積が不足すること及び同図面記載のとおり、東中学校の敷地が、市道及び水路によって分断され、学校の管理運営上、不都合があることから、平成二年五月、教育委員協議会の同意のもと、東中学整備計画を策定し、同年六月、加須市議会に報告した。

7  加須市教育委員会は、学校教育法施行規則五五条、一七条により、小学校及び中学校の学級数は、一八学級以下が標準とされていること、学校統合に対する国庫補助の基準が二四学級とされていること及び中学校においては、クラブ活動及び生徒指導の面から小学校と比較して適正規模は小さくすべきであることから、右東中学整備計画においては、東中学校の適正規模を、二一学級とし、右規模により、三学級以上大きい規模になる場合には、東中学校を分離して、新たな中学校を設立することが策定された。また、右計画においては、右のとおり、昭和三四年に設置された別紙図面一記載<3>の三階建鉄筋校舎が危険建物の認定を受けることが確実であったこと及び平成四年度の予測学級数が一九ないし二一であったことから、右校舎を取り壊し、同図面記載<22>の四階建鉄筋校舎に連結して、その西側に、新たに四階建鉄筋校舎二六〇一平方メートル、普通教室六教室、技術室二室、美術室一室、理科室二室、家庭科室二室、音楽室一室及び視聴覚室一室を設置し、同図面記載<12>の体育館を取り壊し、同図面記載の運動用地の北西側に屋上にプールを設置した重層体育館を設置することとしていた。さらに、右計画において、本件市道については、昭和六一年ころからの東中学校周辺の地元住民の要望により、本件市道を廃止して、北東に新たに市道を付け、同図面記載の運動用地の北東にある水路(以下「本件水路」という。)は暗渠にして、学校敷地を一体化することとし、右市道の付け替えにより、北東の学校敷地は不要となるとしていた。

8  東中学校は、前記東中学整備計画に基づき、平成三年度には、別紙図面二記載<23>の四階建鉄筋校舎二六〇一平方メートル、普通教室六教室、技術室二室、美術室一室、理科室二室、家庭科室二室、音楽室一室及び視聴覚室一室並びに同図面記載<24>―1及び<24>―2のプールを屋上に設置した重層体育館一六三五平方メートルを設置し、平成四年度には、同図面記載<25>の四階建鉄筋校舎九二八平方メートル、特別活動室一室、相談室一室、美術室一室、音楽室一室及び図書室一室を設置した。本件市道については、市道を廃止して、別紙図面二記載のとおり、北東に新たに市道を付け替え、本件水路は暗渠にして、学校敷地を一体化し、右市道の付け替えにより、本件土地を、平成六年七月六日付けで、教育財産としての用途を廃止し、加須市長部局(以下「市長部局」という。)に移管した。

9  加須市教育委員会は、東中学整備計画において、同中学校の適正規模を二一学級とし、三学級以上増加した場合には、同中学校を分離して、新しい中学校を設立するとしていたところ、平成二年度における予測によると、平成八年度には、同中学校の生徒数九四一名、学級数二五ないし二六となることが予測されたことから、平成八年度には、同中学校を分離し、新しい中学校を設立する方針を採り、平成三年一〇月八日付け加教庶発第六六号により、中学校通学区域審議会に対し、加須市内でもっとも大きい昭和中学校の大規模校化を防ぐために、同中学校とともに、東中学校の通学区域についての諮問を行った。加須市教育委員会は、右審議会に対し、検討資料として、東中学校の将来の生徒数及び学級数の予測結果を提出した。右予測は、平成三年七月一日現在の零歳児から中学三年生までの児童の数を基準に、東中学校の通学区域内の水深小学校は児童数の増減がほとんどみられなかったことから、昭和六二年度から平成三年度までの間の東中学校の通学区域内の大桑小学校の児童数の増加二九五名、一年間の一学年平均生徒数増加一二・二九名、川口地区の区画整理事業地内の住宅建設の開始から、毎年一般的社会増を一学年当たり一三名として、平成四年度のライオンズカーデン花崎というマンション及び住宅都市整備公団の分譲住宅への入居が開始することによる特別社会増を加味して予測され、平成八年度の東中学校の予測生徒数は、九八二名、予測学級数は、二六学級というものであった。

右審議会は、平成四年八月一七日、<1>昭和中学校及び東中学校について、現在の通学区域内において分離を図り、<2>分離校の予定地を、昭和中学校分離新設校については、東武鉄道線路南側加須地区内又はその隣接地、東中学校分離新設校については、大桑地区として、それぞれの分離計画を策定し、<3>昭和中学校分離新設校については、現況勘案の上、速やかに、東中学校分離新設校については、平成八年度開校が予定されるので、早急に用地買収に着手すべきであるとの答申を出した。

加須市教育委員会は、右答申を受け、平成五年二月、加須市長宛に、東中学校分離新設校の用地(大桑地区内に三万平方メートルの用地)取得を依頼し、右依頼を受け、市長部局において、平成五年度及び六年度に、右用地の取得がされた。

10  加須市教育委員会は、平成六年七月一五日付け加教学第三二四号により、東中学校と分離新設校との通学区域について、中学校通学区域審議会に諮問した。右諮問の際、加須市教育委員会は、審議会の審議資料として、東中学校を分離した場合及び分離しなかった場合の将来の生徒数及び学級数の予測を提出した。右予測は、平成六年当時の零歳児から一五歳までの幼児及び児童数を住民基本台帳から把握し、右幼児及び児童が、東中学校及び分離新設校に進学するものとし、分離後の東中学校の通学区域を東武伊勢崎線線路南側として、平成二年度から平成五年度までの右区域での一年間一学年当たりの平均生徒数の増加が四・二名であることから、右地区の生徒の社会増については、一年間一学年当たり四名とし、分離新設校の通学区域を東武伊勢崎線線路北側として、平成二年度から平成五年度までの右区域での一年間一学年当たりの平均生徒数の増加が二二・六名であるが、平成四年度を中心に花崎北地区でのライオンズガーデン花崎というマンション等の入居にともなう特別な増加が、一年間一学年当たりの平均生徒数増加一三・九名であるので、右特別社会増を差し引いて、右地区の生徒の社会増については、一年間一学年当たり八名とし、分離しなかった場合には、生徒の社会増については、右社会増の合計一二名として予測され、右予測の結果は、東中学校を分離しなかった場合には、東中学校の学級数は、平成八年度は、二五学級(生徒数九四二名)、平成九年度(生徒数一〇一五名)及び一〇年度(生徒数一〇四九名)は、二七学級となり、東中学校を分離した場合には、分離後の東中学校の学級数は、平成八年度は、一一学級(生徒数三六九名)、平成九年度(生徒数三八九名)及び一〇年度(生徒数三九五名)は一二学級となり、分離新設校の学級数は、平成八年度は、一六学級(生徒数五七三名)、平成九年度は、一七学級(生徒数六二六名)、平成一〇年度は、一八学級(生徒数六五四名)となるというものであった。

右審議会は、東中学校の通学区域内の大桑及び水深地区の市議会議員、自治会長、PTA役員等二〇名で構成され、六回の審議の結果、平成六年一〇月九日、東中学校と分離新設校との通学区域は、東武伊勢崎線線路で分離し、その北側を分離新設校の通学区域に、その南側を東中学校の通学区域にするとの答申を出した。

11  加須市教育委員会は、右答申を受け、分離新設校を、東武伊勢崎線北側を通学区域とし、将来の右新設校の学級数は、平成八年度は、一六学級(生徒数五七三名)、平成九年度は、一七学級、平成一〇年度は、一八学級となると予測されたことから、右予測数に対応する新設校の建設を念頭に置き、右新設校の校舎、体育館等の設計に当たっては、多様な教育方法に柔軟に対応することができる学習区間(学習センター)、多様な教育メディアや情報機能施設等総合的な情報空間(情報センター)、心身ともに健全な生徒を育成する総合的体育空間(体育センター)、人間性豊かな生徒を育成するため、ゆとりのある学校生活を行うための談話スペース等、地域住民が利用可能な生涯学習施設機能、教科経営、学年経営との調和を図った教科、学年学級経営型教室及び生徒、地域住民にとって誇れるような魅力的で格調高い学校建物という基本構想をもとに、加須市建設部建築課に設計業務を依頼し、右課は、右構想を受け、設計業者に設計を依頼した。

12  右分離新設校の建設工事費は、平成七年三月開会の平成七年第一回加須市議会定例会において、平成七年度予算として議決された。

加須市建設部管理課は、右議決を受けて、平成七年四月、(仮)加須市立加須第二東中学校新築工事の一般競争入札に係る資格委員会を開催し、参加資格等について審議し、同年五月、(仮)加須市立加須第二東中学校新築工事についての一般競争入札の公告を行った。同年六月一五日執行の入札において、株式会社間組北関東支店(以下「間組」という。)が、右工事を、二二億一四五〇万円で落札し、同月一六日、加須市と間組は、右工事の仮契約を締結した。同月二三日、右仮契約を受け、平成七年第二回加須市議会定例会において、(仮)加須市立加須第二東中学校新築工事の間組との工事請負契約(以下「本件契約」という。)についての議決がされ、同日、加須市は、間組と右工事の本件契約を締結した。

本件契約に基づき、分離新設校の工事が施行され、平成八年三月に完成した。右分離新設校(平成中学校)は、学校敷地二万八六七五平方メートル、三階建鉄筋校舎一棟(普通教室一六教室、音楽室一室、技術室二室、理科室二室、美術室二室、家庭科室二室、コンピューター室一室、特別活動室一室及び生徒会室一室)、クラブハウス付き屋内運動場、屋上にプールを設置した柔剣道場を有することとなった。

13  加須市は、右分離新設校建設のために、平成五年度は、用地取得費四億二一一五万一一一五円、平成六年度は、新設中学校実施設計業務委託、地質調査業務委託、用地測量業務委託、仮設道路築造工事及び用地取得費等合計一億五九七二万五〇三七円、平成七年度は、新設中学校建設工事管理業務委託、新設中学校建築工事及び新設中学校備品購入費等合計二五億二〇四一万三三二六円、平成八年度は、新設中学校校外溝工事、周辺道路改造工事及び植栽工事費等合計五六七二万二一〇〇円を支出し、右支出のうち六億九〇二六万九〇〇〇円(校舎につき五億〇二〇〇万八〇〇〇円、屋内運動場につき一億一五六二万七〇〇〇円、クラブハウスにつき一五五六万円、部室につき六五三万四〇〇〇円、武道場につき二四六九万円、プールにつき二五八五万円)については、国庫補助金を受けていた。

二  原告らは、平成中学校の設立は、不要かつ不当なものであるから、本件支出が、法二条一三項(ただし、平成一一年法律第八七号による改正前のもの。)に反し、違法であると主張するので、以下、検討する。

1  右認定した事実によれば、加須市教育委員会は、東中学校通学区域内における平成二年五月一日現在の幼児及び児童数を基に、昭和六二年度から平成二年度までの間の東中学校の通学区域内の小学校在籍児童数が、一年間の一学年平均で一一・八名増加していることから、将来的な一般的社会増による生徒数の増加は、一年間当たり一学年一〇名であり、平成四年度には、東中学校の通学区域内において、ライオンズガーデン花崎というマンション及び住宅都市整備公団の分譲住宅への入居が開始することから、児童の特別の社会増が見込まれること等の諸事情を勘案すると、東中学校の将来の生徒数及び学級数は、平成三年度は、生徒数五九〇名、学級数一六、平成四年度は、生徒数七三六名、学級数一九ないし二一、平成五年度は、生徒数七七七名、学級数二一、平成六年度は、生徒数八三八名、学級数二二、平成七年度は、生徒数八六五名、学級数二三ないし二四、平成八年度は、生徒数九四一名、学級数二五ないし二六と予測されたことから、東中学校の大規模校化を防ぐ必要があり、さらに、学校教育法施行規則五五条、一七条によると、中学校の学級数は、一八学級以下が標準とされており、学校統合に対する国庫補助の基準が二四学級とされていること及び中学校においては、クラブ活動及び生徒指導の面から小学校と比較して適正規模は小さくすべきであるとされていること、加えて、別紙図面一記載<3>の三階建鉄筋校舎が危険建物の認定を受けることが確実で、右校舎の改築の必要性があり、また、右予測によると、平成四年度には、同図面記載<12>の体育館七六一平方メートルでは、文部省の基準に従った面積が不足すること、さらに、同図面記載のとおり、東中学校の敷地が、市道及び水路によって分断され、学校の管理運営上、不都合があったこと、本件市道については、本件市道を廃止して、北東に付け替えてほしいとの地元住民の要望があったこと等の諸般の事情に勘案して、東中学整備計画において、東中学校の適正規模を、二一学級とし、二四学級以上の規模になる場合には、東中学校を分離して、新たな中学校を設立することを策定し、東中学校を平成八年度に分離して、平成中学校を建設したのであるから、東中学校を分離して平成中学校を設立したのは、東中学校の学区内の生徒数の増加に対し、中学校としての適正規模を維持しようとしたものであるから、平成中学校設立の必要性及び合理性は優に認められ、本件支出が違法と評価されることはない。

2  この点、原告らは、分離新設校たる平成中学校設立の真の目的は、加須市の財政難の解消のための本件土地売却であると主張する。

しかし、前示のとおり、平成中学校の設立は、東中学校の通学区域内の生徒が平成八年度には、適正規模である二一学級より三学級以上増加すると予測されたことから、東中学校を分離し、大規模校化を防ぐことにあり、また、本件市道の付け替えについては、東中学整備計画において、東中学校の敷地が本件市道及び本件水路によって分断されていたため、学校管理運営上、不都合であったことや、本件市道が生活道路で必要であるとの昭和六一年ころからの地元住民の要望に基づいて、本件市道を廃止して、右市道の北東に新たに市道を付け、本件水路を暗渠とすることとしたものであり、その結果、加須市教育委員会は、本件土地部分については、学校用地として管理する必要がなくなったとして、その教育用財産としての用途を廃止し、市長部局に移管する手続を行ったと認められ、加須市が、加須市の財政難解消のために本件土地の売却を企図して、本件土地を普通財産として市長部局に移管したと認めることはできないし、かかる事実を認めるべき証拠もない。よって、原告らの右主張は、採用できない。

3  また、原告は、加須市教育委員会の行った東中学校の通学区域の将来の生徒数及び学級数の予測は、不当であり、また、東中学校は、敷地については、本件私道の付け替え以前は、三一学級から三五学級に対応するものであり、学校設備については、生徒数一〇八〇人、二七学級まで収容できる規模の学校であるから、平成中学校の設立は、不要であったと主張する。

確かに、乙第五号証によれば、本件市道を廃止し、右市道の北東に新たな市道を開通し、本件土地の教育用途の廃止をするまでは、東中学校の敷地は、三万六三四八平方メートルあり、また、甲第三号証によれば、平成二年三月開催の市議会において、中村詮彦教育長は、将来の東中学校の通学区域内の生徒数の増加に対しては、東中学校の増築において対応する旨の発言をしている。

しかし、右中村詮彦教育長の発言は、東中学整備計画策定前であり、増築の対応については、当時予定の普通教室二一教室を確保するための東中学校の増築を前提として、それ以降、東中学校が二六学級ないし二七学級に増加した場合の対応として、さらなる増築が必要である旨を述べたものであり、前記認定のとおり、東中学整備計画に基づくその後の具体的な整備計画の進捗状況によれば、右発言当時と前提を異にする事態となっている以上、行政としては、その事態に適切に対処することこそ要請され、右発言に拘束されるいわれはないから、右発言の一時をもって平成中学校の設立が不要であるとすることはできないのである。

3  右のとおりであるから、本件支出が違法であるとする原告らの主張は、いずれも理由がなく、採用できない。

五  よって、原告らの本訴請求は、その余について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 星野雅紀 裁判官 都築民枝 蛭川明彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例